肝胆膵グループ
当科は,日本肝胆膵外学会高度技能専門医修練施設A(学会の定める高難度肝胆膵外科手術を年間50例以上施行)認定さており,肝胆膵領域の悪性疾患に対し,年間約100例の手術を施行しています.肝胆膵グループは,主に肝臓,胆道(胆管,胆嚢,十二指腸乳頭部),膵臓の悪性疾患の対する診療を行っています.膵・胆管合流異常,先天性胆管拡張症,脾疾患などの良性疾患に対する診療も行っています.日本肝胆膵外科学会高度技能専門医2人を含む消化器外科医5-6人でグループが構成されています.患者様にとってベストな治療を提供できるように,消化器内科,放射線科の医師,検査部の超音波技師と定期的なカンファレンスを行い,治療成績の向上に努めています.積極的に学会活動に参加し,ロボット支援腹腔鏡下肝切除, ロボット支援腹腔鏡下膵切除などの高難度新規医療技術も導入しています.ロボット支援腹腔鏡下手術を含む腹腔鏡下手術は低侵襲であり,術後の入院期間の短縮,早期の社会復帰が可能です.低侵襲手術を積極的に導入し,日々治療成績の向上に努めています.
肝臓
肝臓は右上腹部に位置し,ほぼ肋骨に覆われ,人体の約2%(1200~1500g)の重さがあります.さまざまな機能がありますが,特に炭水化物,たんぱく質,脂肪の代謝の中心的役割を果たしており, 生体維持に不可欠な臓器です.肝切除術を行う疾患としては,原発性肝癌(肝細胞癌,肝内胆管癌など),転移性肝癌,肝門部胆管癌,肝内結石症などがあります(表1).肝臓は手術などの障害時には旺盛な再生能力がありますが,しばしば,慢性肝炎,肝硬変,閉塞性黄疸等で,肝予備能の低下があり,術後に残る肝臓重量に注意しなければなりません.手術を行う際は,腫瘍の進展だけでなく,肝予備能の評価が非常に重要です.通常の肝予備能の評価に加え.アシアロシンチグラフィーを行い,肝臓の部位ごとの評価を行っています.術前の画像診断から3D画像を作成し,手術のシミュレーションを行い,より安全に手術が行えるように取り組んでいます.
2013年1月より,腹腔鏡下肝切除を導入し,肝部分切除,肝外側区域切除を主に施行しておりましたが,2016年4月に,高難度とされる肝亜区域切除,肝1区域切除(外側区域切除を除く),肝2区域切除(左肝切除,右肝切除など)が保険収載されたことから,すべての術式で腹腔鏡下肝切除を導入しました.胆道再建,リンパ節郭清を伴わない肝切除は,ほぼ腹腔鏡下に施行しています(表2).また,蛍光物質であるインドシアニングリーンを用いた赤外光観察を行い,肝表面にない腫瘍の可視化や肝の区域同定が可能になり,より安全に,より正確に腹腔鏡下手術を行っています.一般的に,腹腔鏡下手術は,侵襲が少なく,回復が早いとされますが,肝細胞癌,転移性肝癌(主に大腸癌からの転移が多い)では,2回目,3回目と繰り返し肝切除術を受ける患者さんがおり,その点でも腹腔鏡下肝切除は,非常に有効な治療手段となります.術式によらず,腹腔鏡下肝切除後ほぼ1週間で退院することが可能です.低侵襲肝切除の社会的な貢献が非常に大きいと考えられ,2022年9月より,ロボット支援腹腔鏡下肝切除を導入し,安全に施行しております(図1,2)
表1 肝切除数(疾患別)
表2 肝切除(術式別)
図1 ロボット肝切除
図2 ロボット肝切除
肝細胞癌
肝切除の対象となると疾患の多くは悪性疾患であり,地域の特性上,当科ではその多くが原発性肝癌である肝細胞癌になります.肝細胞癌は慢性C型肝炎,慢性B型肝炎を背景に発癌することが多いのですが,近年,アルコール性肝障害,非アルコール性脂肪性肝炎(メタボリック症候群による脂肪肝)からの発癌が増えています.いずれも肝障害を伴うことが多く,外科的治療である肝切除と同様に,再発の抑制,肝予備能の維持のために慢性肝炎と肝障害の原因となる基礎疾患に対する治療が重要です.また,再発時にも,初回と同様の手術適応で肝切除を行うことで,初回肝切除時と同程度の予後が期待できます(表3).日本肝臓学会専門医が診療を担当し,日本でもトップレベルの生存率を維持しております.
表2 当科の肝細胞癌肝切除症例の予後(全生存率,2007年-2013年)
肝内胆管癌(胆管細胞癌)
原発性肝癌のうち,約7%と比較的稀な疾患ですが,増加傾向にあります.肝切除術が根治するための唯一の治療法とされています.しかしながら,定型的な治療法は定まっておらず,至適な切除範囲,術前化学療法の適応,術後化学療法の必要性は不明です.病気の進行度に応じて,術前後の化学療法を取り入れ,根治できる患者さんが1人でも増えるように努力しております.
転移性肝癌
多臓器からの転移により形成された肝癌です.大腸癌からの転移が大部分を占めます.肝転移のみの場合,肝臓以外の部位に転移があっても化学療法によりよくコントロールされている場合は,切除の適応になることがあります.化学療法のみ行うよりも,肝内の転移巣が根治切除できた場合,予後が良くなるとされています.他の転移として,胃癌,乳癌,膵神経内分泌腫瘍,腎癌などがあります.肝転移の手術適応については,定まっていません.通常は根治的に切除できることが条件になりますが,膵神経内分泌腫瘍のように80%の腫瘍量の減量により,予後が良くなる場合もあります.
肝門部胆管癌
肝外胆管にできる癌の中で,最も肝臓に近い胆管に発生する癌です.肝外胆管切除に加えて,左肝切除,右肝切除以上の肝切除が必要になり,大きな侵襲がかかる手術を行います.肝臓の切除範囲が50-60%を超える場合,門脈塞栓術といわれる手技を行い,残る肝臓を肥大させてから手術を行います.
肝内結石症
近年減少傾向にあり,また,内視鏡的治療の進歩により,肝切除を受ける患者さんは減少傾向にあります.胆管癌の併存が疑われる場合,将来的に胆管癌の発癌が危惧される場合,内視鏡的治療により結石が除去できなかった場合が,肝切除の適応になります。